一本の木を見つめる細心さと、
森全体を見渡す大胆さが大切だ。
by澤田秀雄(実業家/エイチ・アイ・エス創業者)
よく「木を見て森を見ず」と言われます。
この言葉の由来は欧米にあるそうですが、日々の生活よりも、どちらかという仕事なんかに使われることが多いイメージです。
意味としては、小さなことに気を取られて全体を見ることが出来ない、部分最適にこだわりすぎて全体最適が出来ていない、ということです。
例えば、仕事の営業成績を上げようと思って始めた顧客の資料作り、あーでもない、こーでもないと資料を何度も作り直し、何日間もかけて細部にまでこだわった資料が完成したものの、結果として顧客へ訪問する時間や打ち合わせの時間が取れなくなり、営業成績が下がってしまう、本来の目的は営業成績の向上だったはずですが、いつしか完璧な資料作りに注力してしまい、本来の目的が達せられなかったということになります。
また会社の業績を上げようとして主力製品の販売に力を入れたところ、主力ではない製品の業績が急激に悪化し、結果として主力製品の販売数は増えたものの、他の製品の販売数がそれより更に悪化した為、営業成績は却って下がってしまった、ということも良い例かもしれません。
こう考えますと、木よりも森を見るべきだ!となりますが、仕事においてはそう単純に言い切れないことがあり、私は時に森に気を取られずに木をしっかり見るべきだと思っています。
もちろん言葉の表現の仕方や捉え方の問題でもありますので、「木を見て森を見ず」ということわざに反論するものではありません。
森は木の集合体です。
従って何百本もしくは何千本、何万本の木の集まりが森なわけです。
ここで森を見て、全体が青々と茂っていれば良しと決めるのは早計です。
森は会社の売上や利益と考えても良いかもしれません。
見落としがちなのは、青々と茂っている森の中で枯れている数本の木、仕事で言えば、全体業績が良い中でも採算が悪化している製品や部署です。
例えば、他の木は青々としているのに、なぜこの木は枯れているのか、他の製品や部署は良い結果を残しているのに、なぜこの製品や部署は採算が悪化しているのか、そこを突き詰めて考える必要があるということです。
木は森の縮図、とある製品やとある部署は会社の縮図です。
枯れてしまった木の理由を見れば、例え今は他の木が青々と茂っていても、その森の未来を示しているかもしれませんし、とある製品やとある部署の採算悪化の原因が会社の構造にあるとしたら、今は売上と利益が水準以上の製品や部署でも先行きは危ういと言えます。
また森と例えてもよい会社全体をおぼろげに見渡すのではなく、とある部分を徹底的に見ることで、全体を眺めるよりもむしろ鮮明にその会社のことが見えてきます。
私の仕事の話にはなりますが、工場監査のプロは、工場に着くなり、数字も見ずに、まずその工場の倉庫を見に行くそうです。
なぜなら、その工場の倉庫を見れば、その会社のことがおおよそわかるからです。
製品在庫や仕掛在庫、原料在庫などを見て、保管の仕方、置いてある数量を見れば、他の工程を見ずとも、その工場がどのレベルにあるのか判断出来るそうです。
なぜか?
例えば製品在庫であれば、在庫数量が多ければ顧客の正確な必要量が把握できていないか、何か生産でトラブルがあったときの保険の意味合いが強い為に多くなっているからです。
このことから、まず情報を整理しきれていない、情報が整理できていないということは製品の品質に関する情報も曖昧なままであり、生産時のトラブルに備えた在庫であれば、生産時のトラブル因を真に突き止め切れていない、いつトラブルが発生し、現時点でトラブルが発生する確率も分かっていない、そしてトラブルが起こった際も在庫があるから大丈夫と、トラブル因を追究する従業員の姿勢も緩慢になりがちと推測できます。
従って、倉庫を見れば、その工場全体がよくわかる、ということです。
工場の掃除に関しても同じことです。
汚い工場は品質も悪いのです。
工場は汚いけど作る製品の品質は良い、というのは私の経験上あり得ません。
例外として、日本の家族経営の小さな工場(従業員が全員家族)は汚くても品質が良い場合があります。
これは、製品を作ることに関して一人一人がエキスパートとなっており、ここは汚くても、あっちの工程さえしっかり管理していれば、良いものが作れるとしっかりと全員が理解されているからです。
しかし、普通の工場では、ここが汚ければ、あそこも汚くてよい、この工程がテキトーであれば、あそこの工程もテキトーでよいとなります、反対に、ここが綺麗であれば、あそこも綺麗でなくてならない、この工程がしっかりと管理されているから、あそこの工程もしっかりと管理しないといけないとなるのが普通です。
解説が長くなってしまいましたが、このことから、ことわざには「木を見て森を見ず」とはありますが、やはり木を見ることも非常に大切で疎かにしてはいけないと言えると思います。
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